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実測可能な滞留時間別コンパートメントからなる土壌炭素動態モデルの構築(平成 22年度)
Development of soil carbon dynamics model based on available residence times of each soil compartment

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
0911CD012
開始/終了年度
2009~2011年
キーワード(日本語)
土壌炭素,放射性炭素,滞留時間,土壌炭素動態モデル,加速器質量分析計,耕地土壌,温暖化
キーワード(英語)
soil carbon , radiocarbon, residence time, soil carbon dynamics model, AMS, crop land soil, global warming

研究概要

土壌炭素動態シミュレーションモデルは、気候変動や人間による管理の変化による土壌炭素量の変動を長期的に予測する際に必須のツールである。既存のモデルは複数の概念的なコンパートメントから構成されているため、仮想的な初期値の設定が必要であり、炭素の分解・蓄積プロセスを実測により検証できないなどの問題点がある。これを解決し、さらなるモデルの信頼性向上を実現するためには、実測可能なコンパートメントからなるモデルの構築が必要である。しかし、土壌中に存在する分解速度の異なる炭素プールの分離方法、各プールの中・長期的分解速度の評価法は確立されていない。本研究では、我が国でも数少ない長期データの蓄積のある連用圃場の土壌を利用し、物理的分画法を主とした複数の分画法から得られる各画分(炭素プール) の分解速度を、放射性炭素同位体トレーサーの分析を基に定量化し、代表的なモデルRothCの各コンパートメントの分解速度と比較することにより土壌炭素動態プロセスを解明し、実測可能な コンパートメントからなるモデルの構築を行う。そのモデルを用いることにより、農耕地においてどのような管理が土壌への炭素蓄積を促進し、気候変動の緩和に役立つのかを、より確実に予測できるようになる。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

本研究では、既存の多くのモデルが概念的なコンパートメントで構成されているために突破できない前述の問題点を解決するため、モデルのコンパートメントと実測可能な画分の対応付けを目指す。モデルの概念的なコンパートメントには、それぞれ分解率が定義されているが、分解率の逆数が平均滞留時間となることを利用して、土壌中の炭素を種々の方法で分画した試料の放射性炭素同位体14Cを分析しモデル上の分解率と比較することにより、モデルの概念的なコンパートメントと実測可能画分との対応をはかる。
日本の農耕地土壌のうち、まずは、現行のRothCモデルが適用可能な非黒ボク土の畑土壌を対象に、比重や粒径などにより物理的に分画した炭素や、種々の酸・アルカリ等により化学的に分画した炭素、さらには、Zimmermannら(2006)2やSkjemstadら(2004)3の提案した物理分画と化学分画の組み合わせによる炭素の14Cを測定し、モデル上で定義されているコンパートメントの平均滞留時間と比較する。次のステップとして、現行モデルの改良が必要であるとされている黒ボク土の畑土壌、及び水田土壌についても同様の対応を行う。

今年度の研究概要

1.研究対象地点の選定
日本全国の農耕地から、過去数十年にわたる農地管理の履歴や作物の収量、作物残渣や堆肥の投入量、土壌の粘土含量や炭素含量など、モデルのパラメータが揃っている長期連用圃場を選定する。まずは、オリジナルモデルがそのまま使える非黒ボク土の畑土壌から、気候・土壌条件が異なる3地点を選定し、同一地点から化学肥料区と堆肥施用区など、土壌管理法が異なる2つの処理区を選定する。
2.土壌試料の分画
選定した試験圃場から土壌試料を採取し、比重や粒径サイズ別など物理的な分画、酸処理などの化学的な分画、それらの組み合わせなど、種々の方法で土壌炭素を分離し、それぞれの炭素の量を乾式燃焼法により実測する。
3.放射性炭素(14C)測定
上記で分画された各画分について、グラファイト化した後、加速器質量分析計(AMS:国立環境研究所現有)により14C を測定する。14C は、成層圏上部で宇宙線によって生成され、約5730 年の半減期をもつ核種であり、環境中には極微量(自然存在比10-12)存在している。また、1950-60年代に行われた核実験によって14C が生成されたことにより、大気中の14C 濃度(Δ14C)の急激な上昇が起きた。また、加速器質量分析計(AMS)による14C 測定技術が近年飛躍的に進歩し,環境中に存在する極微量の有機分子や炭素粒子の自然レベル14C測定が可能となった。
4.RothC モデルによる各コンパートメントの炭素量の算出
各地点について、過去から現在までの土壌炭素の変動を現行のRothC を用いて計算し、現在におけるRothC モデルの5つの炭素コンパートメント(DPM、RPM、微生物バイオマスBIO、腐植HUM、不活性炭素IOM)の炭素量を算出する。
5.モデルと実測の比較
上記のデータをもとに、1)各画分中の実測による炭素の存在量とモデルで算出された存在量との比較、2)各画分の14C 実測値とモデルで定義されている分解率の逆数としての平均滞留時間との比較を行い、どの方法で分画した画分がモデル上のコンパートメントと最もよく一致するかを明らかにする。

備考

研究代表:白戸康人(独立行政法人農業環境技術研究所・主任研究員)
平成21年度科学研究費補助金 基盤研究(B)

関連する研究課題
  • 0 : その他の研究活動

課題代表者

内田 昌男

  • 地球システム領域
    物質循環観測研究室
  • 主幹研究員
  • 博士(農学)
  • 化学,地学,理学
portrait

担当者